官民連携事例① オンライン医療で感染症対策。
市内全域でオンライン服薬指導が可能になるよう厚労省と粘り強く交渉。
養父市のように高齢化が進んでいる地域では、定期的に医療機関や薬局に通うことそのものが、かなりの負担になっていることは想像に難くない。すでに医療機関ではテレビ電話などの情報通信機器を使って受診する「オンライン診療」について、全国レベルで取り組みが始まっている。しかし、薬機法の定めにより薬局で処方薬を受け取るには、薬局に赴き薬剤師の服薬指導を受ける必要があるという状況が続いていた。
そこで養父市をはじめ愛知県、福岡市は、国家戦略特区の仕組みを使って国に対し「テレビ電話等を活用した薬剤師による服薬指導の対面原則の特例」を提案、平成30年6月の諮問会議でその提案が認められ、服薬指導もオンラインで可能に。ただ、愛知県と福岡市は島しょ部やへき地だけを対象地域に限定し、同年7月からオンライン服薬指導を開始。それに対し、市全域が過疎地域指定を受けている養父市は、特例の対象を“市全域”にすることにこだわり、内閣府を通じ、厚生労働省との調整を続けた。
「診療後に服薬指導を受けて薬を受け取るという一連の流れの中で、そもそも両方が同等の要件でオンラインが可能となるべき。また対象地域によって市民の利用可否が決まるのはおかしいという思いがありました。さらに当市は、オンライン利用者でも3カ月に1度は対面服薬を行う必要があるというルールの中で、市民が通い慣れた薬局を選べることにこだわり、粘り強い調整を続けました」と、同市の大門さん。
市職員が医療機関を個別訪問し、メリットを説明。
厚労省との調整のほかに、オンライン服薬指導の推進には法の求めによりオンライン診療が必須だった。
「鉄道は市内東部寄りを南北に走る1線のみで、鉄道が通っていない山間地は市街地まで車で1時間近くかかる場合も。さらに豪雪地帯のため、冬場の積雪により通院に支障が出るなど、当市の地勢を考えると医療を受ける機会の確保は大きな課題でした。一方で、そういった土地柄だからこそ訪問診療に力を入れる医療機関も多く、これまで市内でオンライン診療を行っている医療機関はありませんでした」と同市の濵さんは話す。
そこで、市職員が市内の医療機関や調剤薬局を1軒ずつ訪問。メリットを根気強く説明した。
これらの調整を並行し、平成31年3月、同市でオンライン服薬指導がスタート。他の特区より8カ月遅れだったが、地理的な制約にとらわれず、オンライン服薬指導をより多くの市民が利用できる体制づくりが実現した。
オンラインの特性を活かしインフルエンザの感染対策を。
令和2年7月時点で、同市内では医療機関3カ所と調剤薬局4軒が、オンラインでの診療および服薬指導事業者としての登録を完了している。今後スマホやタブレット端末を使い慣れている世代が高齢化していくことで、利用者は徐々に増えると予想。オンライン医療の利便性を市民向けに告知・啓発し、自発的な利用増に期待する。これは、インフルエンザ流行時に感染者と医療従事者、感染者とほかの患者の接触を最小限に抑え、感染拡大を防ぐことを狙った新手法だ。
収束の気配が見えない新型コロナウイルス感染症。これに季節性インフルエンザの大流行が重なれば、医療崩壊の危機も高まる。そうした状況も踏まえ、提案中の新手法を可能な限り早い時期から実証に移したい考えだ。
課題解決のヒントとアイデア
1.医療機関の理解と協力を得るために説明
日本の医療の将来を考えた行政からの提案とはいえ、医療従事者にはオンライン医療に対する様々な考え方がある。そのため、市職員が医療機関や調剤薬局を訪問し、根気強く説明。市の思いや想定する仕組みを伝え、協力を仰いだ。
2.民間企業が提供するシステムを活用し初期費用を最小限に
オンライン服薬指導を始める際には、患者情報などを管理するシステム投資が必要となるケースが少なくない。同市では民間企業と実証事業の形を取っており、企業からオンラインでの診療・服薬指導を一貫してサポートする情報通信システムの提供を受けたため、そのシステムを初期投資なしで届出医療機関、登録薬局、患者に無償提供が可能となった。
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